止まったままのこの子の枷。かごの鳥。

現在へ

このままここにいたら息苦しいのに、快適なかごの中は出ていくのが億劫になる。

思ってない。両親に愛されたい、なんて。……すごく、認めたくないんだろうなあ。

愛情を求める本能が、憎らしい。

笑ってはいけない。肌に爪を立てる。そうすれば、痛みで多少表情の抑制ができた。楽しいのも嬉しいのも感じたくない。相手の望んでいないときに笑うことが、逆鱗に触れそうで怖かった。

この少女には、哀しみがよく似合う。

嫌だと思う現状をどうにもできないから、嫌だと思う感情を無くそうとしたのだろう。

「魔法が使えたら何がしたい?」
(わたしを知るすべての人の記憶から、わたしの存在を消去したい。)
忘れ去られたかった。もともと実在しなかったものになりたかった。
「空を飛びたい」
でも言えなかった。子供らしく答えた。

何を言われても、されても、傷付いたり、泣くことのない、人形になりたかった。傀儡に、意思や感情なんて必要無い。

たった独りになったときのために、この子が生んだ人格。それがわたしなのだろう。

心ですべて許していても、初めから怒ってなんていなくても、体が条件反射みたいに怖がる。

忘れるな。1個かみ合わなくなれば途端に歯車は狂う。滞りなく回り続けなければ。それでも、わたしの回り方に周りが、周りとのかみ合いにわたしが、ごまかされていてくれる間は。

褒められることは苦手だ。比べられるなら、わたしが劣っているのがいい。嘲笑されることになら、安心できるから。

否。褒められること、優れていると思われることには興味が無い。劣等を感じる相手からの妬みに対して負の関心がある。持ちたくなくとも。

写真に撮られるのは嫌い、大嫌い。写真、だけじゃないなあ。記録が鮮明であるほどに嫌悪感は増す。わたしが、確かに存在していたという証を、まざまざと残さないで。

学校を休むと、母は苛ついた。

なぜ泣いているのか、わたしには解らない。その理由と感情は、この子が持っているから解らない。

テストの点数が良くたって、大事なものは守れない。いちばん大切にしなければいけない心が狂っているわたしには。

独りでいるなら、一緒にいたい人がいないなら、嫌われていてもよかった。笑われていても気にしなかった。底辺の立場に納得して、好かれないのが当たり前で。嫌われることに対する疑問は放棄して、抗う必要もなかった。

色が黒いのではない。明かりが無くて真っ暗なのだ。

絶対的な悪でありたかった。どんなに善い行いをしても好かれないような、どんなに理不尽な扱いを受けても かばわれないような。

永遠は信じていない。

指の先から溶けていってしまいそうな闇夜に、いっそ呑み込まれたくなる。朝日が闇を消していくときに、一緒にわたしも消えて無くなってしまえたらいいのに。

黒は深い闇の色。だからわたしは黒ずくめ。

ねえ、それは誰かを救った? わたしを目障りに思う人に従って、わたしを助けてくれようとしていた人を拒んで。ねえ、それはどっちか片方でも救えたの?

気付きたくなかった不条理を、でも今度は逸らさずに、見据えながら生きていく。

相対的な見方で不幸に感じるならばと、幸福に感じるような相対的な対象に置き換えたり。

家族という言葉は、好きになれない。選べない、縁の切れない、拘束力のある関係だから。

人間は怖い。どうしてもこの先入観が先に来てしまう。

怒りの感情は、相手から向けられるのも自分が持つのも苦手だ。怒鳴られることは、絶対命令。敵うはずのない力でねじ伏せられることに等しい。

作るのは好き。でも残したくない。

母は何故、わたしを生んだのだろう。そんなの、わたしを生んだのではなくて、子供が生まれてきたに過ぎない。少し考えてみれば、愛情を当たり前に思っていたことが恥ずかしくなった。

文字は好き。素晴らしい曲線と直線の美だ。それでも筆跡は残したくない。

ひどく冷めきっているのに落涙は温かいなんて。

冷たさに慣れきらせていて。ずっと一緒になんていられないのだから。環境を変えることなどできないのだから。暖かさを知った分、すり抜けていた寒さが突き刺さってくる。

21g。魂の……わたしの命の重さ。妥当だと思う。

大事に扱うことと、粗雑に扱わないことは違う。

独りでいるほうが気楽なのに、たまに、寂しくなる。体調が悪いときは特に。

ぐるぐると、気持ちの悪い嘔吐感。目覚めたばかりの朝は。外出して、人と接しなければならない日は、大抵。

わたしも大概、不器用な生き方をしている。

この子は脆弱だから、耐えられなかったのだろう。ここで生きていくには、わたしが必要だったのだ。

メイクをするなら、原形を推し測れないくらいの分厚い仮面を塗り上げたい。

嫌だと思わなかったら? 辛いと感じなかったら? 何も不都合なことなどない。けれどあまりにも都合が良すぎやしないだろうか。かえって不自然な適応さではないだろうか。

排除した怒りと総じて振れ幅の狭くなった残り。

黄色い帽子とランドセルと、セーラー服と学ラン。それから校舎の近くは、酸素が薄くなるらしい。

日本語で過去分詞を使おうとするようなものだった。

母は、わたしが将来自分を楽にしてくれることを期待している。わたしは、わたしのために母から離れて自由に生きることを望まれていない。

普通の家庭の中で、わたしだけが。

家族に夢を見すぎだ。

卑下されていることが解らないわけでも、心が広いわけでもなく。

わたしが誰かに好かれているなんて有り得なかったから、わたしが居なくなることで寂しい思いをさせる可能性なんて考えもしなかった。蔑ろにしたんだ。

賢くない人がうらやましかった。頭の良さにうらやんで、すごいねと誉めたり、自分たちには難しいよねと言い合ったり、わたしもしたかった。

ただの音だ。だから傷付く必要なんてない。そう思おうとしたけどだめだった。